南アフリカという国をご存知ですか?みなさんはどのようなイメージを持っているのでしょうか。
アフリカ大陸の最南端に位置し、アフリカで唯一G20に含まれる国です。多くの自然遺産や天然資源にも恵まれていて、経済的にも発展しています。古くからヨーロッパやインドなどからの移民がおり、多様な人種の人が住んでいます。
また、過去に白人と有色人種とを差別する人種隔離制度であるアパルトヘイトが起こったことで有名です。
昨年は、アパルトヘイトの抵抗の象徴であり、南アフリカ初の黒人大統領となったネルソン・マンデラの生誕100周年。アパルトヘイトが崩壊してから24年がたった今、南アフリカの基礎教育制度はどのようになっているのでしょうか。
アパルトヘイト下の南アフリカでは、黒人向けの基礎教育として「バンツー教育(Bantu Education)」が導入されました。
原住民である黒人には母語での独自教育を導入するという、一見民族自治を推奨するような制度です。しかし実際は、白人中心の中央政府がすべてを管理したため、黒人向けのカリキュラムから学術的な内容は排除され、園芸などの実務的な授業のみ実施さる結果となりました。また、英語での教育禁止は、黒人が英語によって行われる大学などの高等教育を享受することを阻害しました。教育予算全体も、白人・黒人間で大きな格差があり、黒人向けの学校では、教師や教室の数が圧倒的に不足していたといいます。
1994年にアパルトヘイトが廃止され、人種を問わず全国民共通の基礎教育制度が導入されました。
教育予算の分配比も、貧困地域に優先的に配分するよう傾斜がかけられ、貧困地域では教育が無償で受けることができる一方、富裕層の地域では、授業料の支払いが義務づけられています。
また、学校運営に地域の声を反映するため、各学校にSchool Governing Body(SGB)が組織されました。日本で言うPTA役員会に近いものですが、選出された保護者や教師に加え、生徒の代表も参加しています。また、PTAよりも幅広い権限をもち、学校運営に関わるようなカリキュラムや教員の採用可否、学費の徴収額などを決定できることが特徴です。
このように、アパルトヘイト後に南アフリカの基礎教育制度は大きな改革を成し遂げました。しかし、教育に関する評判は悪く、2017年のWorld Economic Forumによる各国の基礎教育制度ランキングでは133ヶ国中126位。南アフリカ政府の教育予算は、対GDP比で6.4%、EUの4.8%に比べ、多くの予算を割いています。しかし、未だ約半数の学生が12年の基礎教育期間を終えることができず退学となり、白人・黒人間の格差も残っているのです。大卒以上の学位をもっている白人国民は18.3%である一方、黒人国民では3.1%にとどまっているのが実情です。
不名誉な結果となっている南アフリカの基礎教育制度は、地域間格差と教員の質不足という大きな課題を抱えているといわれています。
地域間格差には、先ほど述べたSGBが大きく影響しています。つまり、保護者などの同意次第で、政府により配分された教育予算に加え、学校に追加資金を投入できることになるのです。しかし、南アフリカは、アパルトヘイト時代の影響もあり、富裕層と貧困層で居住地が分断されているため、地域によって大きな所得格差があります。そのため、富裕層の住む地域の学校は、より多くの運営資金を得ることができるようになっているのです。
結果として、貧困層の授業料に比べ富裕層の通う学校の授業料は10倍にもなり、政府からの資金よりも授業料による保護者からの出資より質の高い教育の提供ができるようになりました。そのため、同じ公教育でも地域により質に差が生まれています。
また、教員によっては賄賂を受け取るものもおり、教員の倫理感も問題視されているといいます。
こうした公教育の状況を受け、高い水準の教育を安価で提供する、私立学校が注目されています。SGBの働きもあり、公立学校でも授業料が高額になる地域がある一方、南アフリカの都市部をはじめ、公立学校の平均授業料と変わらない金額で入学することができる私立学校が人気となっているのです。瞑想や身体表現など、独自のカリキュラムを持つ学校もあり、学力面でも高い成果を上げていることから、中低所得層を中心に入学希望者が増加しています。
しかし、こうした動きも都市部にとどまっており、また低所得層からするとこうした私立学校の授業料は未だに手の届かない金額であることは確かです。
南アフリカでは教育制度を巡り、様々なセクターが知恵を絞っています。政府、民間、市民が一体となって取り組む必要がありそうですね。
このように、ユニークな社会経済環境を持つ南アフリカ。今だ多くの課題を抱えている一方、アパルトヘイトから現在に至るまでに、大きな変革をし、着実に成長している国です。そんな南アフリカの過去・現在・未来を探る5日間のプログラムがこちら。
(出典)
https://educonnect.co.za/the-issues-with-south-africas-education-system/
http://www.populareducation.co.za/sites/default/files/governance%20booklet_WEB.pdf
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