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日露経済協力8項目プランは現実的なのか?

大浦勇樹@ロシア
  • 2018/08/19 00:00
  • ロシア
  • 企画・マーケティング,新規事業,社長直下
  • インターン前

日露経済関係は発展性があるのか?ないのか?

 

 

⒈ はじめに

 

 私は14歳(2011年)の頃から、次の3つの理由でロシアに興味を持ってきました。第一に、2011年3月に発生した東日本大震災及び福島第一原発事故に際して、ロシアから派遣された救助隊の姿をテレビ報道で見、我が国を支えてくれる国が米国、西欧諸国、中韓だけではないことを認識しました。第二に、それでもなお我が国とロシアの間には平和条約が締結されておらず、北方領土問題等の戦後処理が十分ではないことに問題意識を持ちました。第三に、二国間関係進展に向けて我が国の多くの人々が努力する中、2014年のウクライナ内戦発生以降、国際政治の動態の中で、決して容易でない政治経済関係改善への道に自分の身を置きたいと感じたからです。ヘゲモニーから多極化への移行が主張される中、私にとって多極化を国際社会に対して取分け声高に主張するロシアは、我が国が積極的平和主義を掲げて国際社会における名誉ある立場を占めようとする上では、決して無視できない国であると認識されました。

 

 この記事は、日露経済関係の展望と課題について、統計資料を踏まえながら検討したものです。我が国とロシアの関係をどう考え、どうしていくのが望ましいのか想像する上で、この記事を読むみなさんにとって意味のある文章となれば幸いです。

 

 

 

⒉ 日露貿易の現状について

 

 まずは、日露貿易の現状について考えてみたいと思います。

 財務省貿易統計からの引用となりますが、2013年から2017年までの輸出入推移及びロシアにおける我が国からの進出企業数(拠点数)を調査しました。(自作のグラフを投稿しましたが、エラーになりました。申し訳ないです!!)

 日本の輸出額も輸入額も、2013年以降は伸び悩んでいるように見えます。また、輸出額は輸入額を大きく下回っていることも分かります。日系企業の進出数は2013年時点に比べて大きく増加しましたが、2014年以降は伸び悩んでいます。対露直接投資残高の伸びも微妙ですね。

 

 ロシアNIS貿易会経済速報8月5日号を読んでみましたが、日本の輸出額は伸び悩んでいる上に、偏っているように思われました。ロシアでは元々日本からの中古車に対する人気がありましたが、近年では中古車だけではなく、新車の売上げも増大しています。しかし、全体的な輸出額が増大しないのは、自動車の他にロシアで買われる日本産の商品が少ないからであるように思われます。本当にそうなのかどうかは、来月以降のインターンシップで検討したいです。

 

 輸入額は輸出額を上回っていますが、増加傾向にはありません。理由は、鉱物性燃料全体の輸入量が減少したためです。ロシアは資源の輸出に依存しているために、ウクライナ内戦以降の原油安や経済制裁の影響が出ているのではないでしょうか。ロシアが日本に対して売れるものが、資源以外にないのかどうか、これもインターンシップで考えたいと思います。

 

 

 

⒊ 日露貿易の今後の展開について

 

 日露経済関係が、他の国との経済関係以上に持つ特徴は、政治主導の性質が強い点です。2012年以降の安倍内閣は、北方領土問題を解決し、平和条約を締結することを目指して来ました。2016年5月に総理はプーチン大統領と会談し、次の8項目の経済協力プランを示しました。

 

①健康寿命の伸長 

②快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り

③中小企業交流・協力の抜本的拡大

④エネルギー

⑤ロシアの産業多様化・生産性向上

⑥極東の産業振興・輸出基地化

⑦先端技術協力

⑧人的交流の抜本的拡大

 

 こうした協力プランを更に進めるため、日ロビジネス対話(2016年12月)、ロシア総合産業博覧会(2017年7月)、第3回東方経済フォーラム日ロラウンドテーブル(2017年9月)、第22回サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(2018年5月)等、日露両国の政治指導者の協力関係をPRするイベントが今迄多く開催されて来ました。

 

 しかし、日露貿易自体があまり発展していないことは、⒉でグラフが示している通りです。政治目的が先立ち政治主導が強い経済協力であるが故に、経済の現状に合わず、官民連携がうまく進んでいないからではないでしょうか。

 

 一方で、ロシア連邦統計局の資料を見る限りでは、自国の輸出力強化、極東開発を背景として、中国及び韓国とロシアとの間の経済関係は確実に伸張しています。我が国は中韓・欧米主要国と比較して、対露貿易が全く振興していないようです。日系企業がロシア・第三国で現地生産したケースを追加しても、ロシアに対して日本が他の主要国以上に多くの物・サービスを輸出できているとは言えません。

 

 それでは、一体ロシアのどこに我が国にとってのビジネスチャンスが転がっているのでしょうか。8項目協力プランを再確認すると、①・⑤・⑥・⑦・⑧が重要であるように思われます。医療技術の未発達やアルコール中毒等の社会病理によって長いとは言えないロシア人の健康寿命を伸ばす上で、我が国の医療技術が特に喜ばれる可能性は高いです。労働人口の減少を防止するため、健康寿命の伸張はロシア政府にとって重要ですから、分野自体のポテンシャルが非常に高いと言えます。また、農業分野における生産性向上もロシアにとっては無視できません。近年、農作物・畜産において豊作状況であったにも関わらず、貯蔵設備が乏しいことから、生産性の高い環境にあるとは言えないからです。更に、快適・清潔な都市環境整備について、ロシアのゴミ問題は注目すべきです。日本の3R技術の輸出や環境に配慮した商品のブランド化が期待できるかも知れないからです。また、ロシアでは大学教育を受けた若者の多くが外国で働くことを望んでいると聞いたことがあります。知識・技能を持ったロシア人が日本での生活を選択しようと考えるような広報・環境整備を果たせば、日露関係の更なる発展に繋がるのではないでしょうか。その現実性、発展性については、これもインターンシップ先で学ぼうと思います。

 

 

 

⒋ ウクライナ内戦は日露貿易にどのような影響を与えるのか

 

 2014年以降、欧米及び日本はクリミア併合・ウクライナ内戦介入を背景として、ロシアに対する経済制裁を実施しました。ロシアも対抗して欧米からの食品輸入を禁止しました。日本の経済制裁は政治的観点からは実質的ではなく、二国間政治経済関係を急激に悪化させるものではありませんでした。それではなぜ⒉のグラフで2014年以降の二国間貿易状況は悪化したのでしょうか。欧米主要国企業との関係の悪化に配慮した日本企業の自粛が考えられます。二国間経済関係が強力な政治主導の下で実質的成果を出せずにいるのは、北方領土問題解決・平和条約締結という政治目的を持った政府と、欧米主要国企業との良好な関係を維持しながら利益を得ることを目的とする民間企業との間のズレがあったからだと結論付けられるかも知れません。また、経済制裁下で、保護貿易的目的から、外国製品から自国製品への代替政策がロシアで進められた場合、日本製品がロシアで売れる機会が年々減少する危険性も高くはないと思います。それが本当かどうかはインターンシップ先で是非学びたいです。

 

 

 

⒌ 今後の第4次プーチン政権は日露貿易を発展させられるのか

 

 「権力の垂直」を謳い、内政も外交も大統領個人が完全に掌握しているが故に、シリア内戦・トランプ政権への対応等の外交分野での課題が山積した状況では、ロシアの内政・経済改革の進捗は私個人としては期待できません。ロシアW杯直後に年金制度改革が問題となり、大統領支持率が大きく低下しましたが、これは政策決定権を経済閣僚等に大統領が移譲したために、政府内の統一が弱まってしまったから起こったと考えます。それほど内政を大統領府で処理するのが大変になってきたということなのかも知れません。日露8項目協力プランがロシアの内政・経済改革と密接に結びついている以上、日本企業がロシアにもっと進出できるような環境整備の促進が政府に求められています。

 

 市場という現場で、政治主導の強いロシアの経済と我が国がどのように結びつけばいいのか知ることは難しいと思いますが、自国の内政・経済改革について、ロシアの若者がどのように考えているのか、我が国の望みが理解されるのかどうかについては、インターンシップ先で様々な人々とコミュニケーションをとって、是非我が国に持ち帰りたいと思います。

 

以上

 

大浦勇樹@ロシア

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