越境学習とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を自発的に“越境”し、自らの職場以外に学びの場を求めることを意味します。私たちタイガーモブは、海外インターンシップが人々にどんな影響を与え、人々にとってこれからどんな役割を担っていくものになるのかを探るべく、これからの新しい働き方・キャリア形成の考え方や実現方法を提唱されている、法政大学大学院・政策創造研究科の石山恒貴教授にお話を伺いました。
※この記事は前編です。
法政大学大学院・政策創造研究科 石山恒貴教授
研究室の棚には、大学院生さんの写真やアニメ「ワンピース」グッズがいっぱい。
◎「越境学習」とは?ー目次
▼前編
#1 なぜ今「越境学習」が注目されているのか?
#2 越境学習のメリットとは?
#3 越境学習のコツは、会社を変えたいという思いを風化させないこと。
▼後編
#4 「越境」すると、自分で課題設定せざるをえない環境になる。
#5 「越境」するための一歩を踏み出そう!
#1 なぜ今「越境学習」が注目されているのか?
ー「越境学習」がどうしていま注目されているのでしょうか?
「いろんなことが絡んでいると思います。パラレルキャリアについては、働き方改革の関連で注目され、中小企業庁の報告書もでています。柔軟な働き方と絡んで、兼業・副業自体をパラレルキャリアと呼ぶ場合もあります。私はパラレルキャリアをもっと広くとらえていますが、いずれにせよ、このような背景もあり、メジャーになってきています。プロボノが注目された理由として2011年の東日本大震災で社会貢献の意識が高まったことがあると言われています。ロート製薬が副業解禁したことも、東日本大震災で社員が積極的に復興ボランティアをやっていた背景もあり、社員プロジェクトにおいて提案されたそうです。このような流れと、働き方も柔軟にしないといけないという兼業・副業のような考え方が、たまたま偶然全部絡んだというところがあったんじゃないかと思うんですよね。」
※パラレルキャリア…現在の仕事以外の仕事を持つことや、非営利活動に参加することを指す。
※プロボノ…各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般。
#2 越境学習のメリットとは?
ー石山先生にとって、越境学習のメリットって何でしょうか?
「アルバート・バンデューラが提唱した自己効力感という考え方があります。『自分はこれをやれる』という期待のことなのですが、例えば<言語的説得>によって『君はやれる』と言われたり、<代理経験>と言われる『他の人がうまくやっていることを観察すること』によって、自分もやれるんじゃないか、と考えることができます。最初はみんな自信がないけれど、一旦サードプレイスに出てみたら、そこには等身大で多様な人々がいるので『あの人がやってるんだったら自分もやれるんじゃないかな』と考えることができます。これは越境学習の一つのメリットです。」
※サードプレイス…コミュニティにおいて、自宅や職場とは隔離された、心地のよい第3の居場所を指す。
「また、 <逆カルチャーショック>と言われたりするのですが、海外に出て新しい考えを知り、現地で色々任されて、自分の意思で働けるようになったとします。しかし日本に帰って来て、日本流の職場環境(仕事を進める上での根回しや、自分では意思決定できないなどの環境)に直面した時には、主な選択肢が3つあるようです。
1つ目は、海外のアイデンティティを優先し、もともとの会社を辞めてしまうパターン。2つ目は海外のアイデンティティを捨てて、日本流の環境に順応してしまうことで、『それが楽だよね』と思うパターン。3つ目は、海外側でもないし日本人側でもない、どちら側でもない新たな視点をもつ人間になるパターン。
日本流だけが悪いわけじゃないし、海外流だけが優れているわけじゃありません。『いろんな考えがあるよね』ってお互いにそれを相対化して、でもどっちにも馴染めないしどちらからも完全に弾かれない、状態になるのです。完全にどこかに属している気持ちが持てないので孤独かもしれないけど、ちょっと新しい自分になります。僕はこの3つ目がいいんじゃないかと思います。」
※リバースカルチャーショック/逆カルチャーショック…違う文化への順応が済んだ後、今度はもともとの自分の文化へ帰ると、新たに「これもあれも違う」というカルチャーショックを味わうこと。
ー私たちも個人の選択ではありますが、客観的に物事を捉えて考えられる「あたらしい自分」になれる人を増やしたいです。
「要するに『自分』になるんですよね。越境ってそういうことなのかな、と思います。例えば今の職場がホームだとするじゃないですか。タイガーモブに行くとちょっとアウェーで、普段の自分からすれば、変わってる人たちしかいなかったりします。居心地は悪いけれど、だんだんこっちのアウェーも楽しく感じて来るのですが、こちらに行きっぱなしではなくて、自分の職場に一回戻るわけです。そうするともうタイガーモブだけがホームでもない、自分の職場だけがホームでもない、新しい自分になります。そしてそれが今は二つしかないけれど、もっといろんな所にも行くかもしれないじゃないですか。そうするといろんな所にも行って、どれでもない自分になって、でもどれでもない自分になったからこそ、自分の職場も変えていけるかもしれないし、思いがけないイノベーションが生まれる可能性があります。今までの日本だと自分の職場ならそこで生き続けた方が幸せだよねっていう考えだったと思うんですけど、越境学習にはその『新しい自分』が属していたコミュニティで、イノベーションを起こす可能性があります。」
#3 越境学習のコツは、会社を変えたいという思いを風化させないこと
ー「新しい自分」になることで、自分のアイデンティティが明確になったり、「この会社はこれがいいな」とか「これが課題だな」と客観的に見て改善していけますよね。
「そうなんです。むしろその方が、自分の職場自体も変わります。つまりそういう人が増えると、自分も学ぶけどその職場自体も学ぶわけですよね。それが越境学習の定義なんですよね。越境学習って『ただ単純に外に出るのが越境学習だ』ということもあれば、『越境して自分だけが学べばいいんじゃないのか』という考えもある。いろんな定義があっていいと思うんですけど、自分の定義は行って戻って行って戻って、いくつもの集団に属しながらもそれぞれの集団も変えていって、自分も変わるけど集団も変わって、自分の学びと集団の間に境目がないっていうのが僕の定義です。」
ー越境学習の効果を継続させるにはどうしたら良いと思いますか?
「それは実は、越境学習をやってる会社の方にインタビューしたことがあります。例えばある会社で働きながら、週末とか平日の夜にNPOと共同プロジェクトやってるとすごい盛り上がって、『これが自分の人生の情熱だったんじゃないか』って盛り上がるんですけど、そのプロジェクトが終わって、会社に戻って3ヶ月くらいするとその情熱がだんだん風化してきて、会社を変えたいという思いすら、言えない状態になってしまうのです。しかし、その会社のケースでは、越境した人たち自身が、自分たちの経験を風化させたらもったいないと考え、自発的に越境してた人たちが5人〜10人くらいで集まって、越境経験を語り合うようにしています。そうすると風化を食い止めることができ、再び『会社を何か変えよう』と考えることができます。やっぱり一人だと結構きついかもしれないですよね。そこで仲間を増やして、越境してた人が10人、20人、30人…になって、それが普通になれば変わって行くと思うんですよね。」
#4 「越境」すると、自分で課題設定せざるをえない環境になる。
#5 「越境」するための一歩を踏み出そう!
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